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東京地方裁判所 平成10年(ワ)1155号 判決 1998年5月20日

原告

東京海上火災保険株式会社

被告

今野浩幸

主文

一  被告は、原告に対し、金二〇四万九六七二円及びこれに対する平成九年二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、一〇分の一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分について、仮に執行することができる。

事実及び理由

一  原告は、「一 被告は、原告に対し、金二二四万九六七二円及びこれに対する平成九年二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。二 訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び右の一について仮執行の宣言を求め、次のとおり請求原因を述べた。

1  原告は、ベニックス株式会社(以下「ベニックス」という。)との間で、平成八年一〇月一七日、保険期間を平成九年六月一日までとし、衝突・接触等により、ベニックスが所有する自家用普通乗用自動車(品川七七う三七八七、以下「本件車両」という。)に生じた損害をてん補する旨の自家用自動車総合保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。

2  次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一)  発生日時 平成八年一二月九日

(二)  発生場所 千葉県市川市塩焼二丁目七番先路上

(三)  事故車両 被告が運転していた自家用普通乗用自動車(習志野七七す二八二五、以下「被告車両」という。)、齋藤雄司が運転していた本件車両、佐谷明美が運転していた自家用普通貨物自動車(習志野八〇あ・四四六、以下「佐谷車両」という。)

(四)  事故態様 本件車両が片側一車線の道路(以下「本件道路」という。)を直進走行していたところ、被告車両が、一時停止標識のある脇道から本件道路を横断しようと直進し、被告車両の正面部分が本件車両の右側後部に衝突した。その影響で、本件車両は、本件道路上に停止していた佐谷車両の後部に追突した。

(五)  車両損害 本件事故により、本件車両及び佐谷車両はいずれも損傷し、修理費として、ベニックスは一五五万八九九五円、佐谷明美は五四万九六七二円の損害を被った。

3  被告は、本件事故当時、被告車両を運転していた。被告は、一時停止標識のある脇道から本件道路に直進進入しようとした際に左右の確認を怠り、本件道路を走行してきた本件車両に気づかなかった。このように、被告は、脇道から優先道路に進入して横断する際、左右の安全の確認をすべきであるのにこれを怠り、被告車両を本件車両に衝突させるとともに、さらに本件車両を佐谷車両に追突せしめた重大な過失がある。

したがって、被告は、民法七〇九条に基づき、2(五)記載の損害を賠償する義務がある。

4  原告は、本件保険契約に基づき、平成九年二月六日、ベニックスに対し、2(五)記載の損害のうち一五〇万円を、平成九年二月一二日、佐谷明美に対し、2(五)記載の損害五四万九六七二円をそれぞれ支払った。

したがって、原告は、ベニックス及び佐谷明美に支払った合計二〇四万九六七二円の限度でベニックスが被告に対して有する一五〇万円の損害賠償請求権と、佐谷明美が被告に対して有していた損害賠償請求権を、いずれも代位取得した(佐谷明美が被告に対して有していた損害賠償請求権は、ベニックスを通じて代位取得した。)。

5  原告は、代位取得した本件事故による損害賠償請求事件の解決を原告訴訟代理人らに委任し、二〇万円以上の着手金及び報酬の支払を約束した。

したがって、このうち、二〇万円は不法行為である本件事故と相当因果関係がある。

6  よって、原告は、被告に対し、保険代位により取得した不法行為に基づく損害賠償権に基づき、二二四万九六七二円と、これに対する保険金を支払った日の翌日である平成九年二月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告は、適式の呼出しを受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しないから、一1ないし5の事実を明らかに争わないものと認め、これを自白したものとみなす。

もっとも、弁護士費用について、それが不法行為と相当因果関係のある損害と認められるのは、不法行為によって、被害を受けた者が損害の回復を弁護士に依頼するのが通常必要な手段といえるからである。ところが、原告は、本件保険契約に基づいて、ベニックスが有する不法行為に基づく損害賠償請求権(佐谷明美に代位して取得した損害賠償請求権も含む)を代位取得したにすぎず、本件事故により被害を受けた者ではないのであるから、本件訴訟の追行について、原告訴訟代理人らに対し、着手金及び報酬の支払を約束したとしても、それは、本件事故とは相当因果関係があるとはいえない(なお、被告の擬制自白の効果は、相当因果関係を基礎づける事実についてのみ生じ、それを前提とする相当因果関係の有無の判断については及ばないというべきである。)。

よって、原告の請求は、弁護士費用を除いた二〇四万九六七二円の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 山崎秀尚)

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